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月別アーカイブ: 2025年4月

山佐園の茶話~part12~

皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!

 

 

山佐園の茶話~part12~

ということで、お茶農家が行う茶畑育成の一年と技術について、初心者にも分かりやすく、かつ専門性を持って深く解説します。

 

日本茶の味と香り、その背後には「茶畑」という舞台があり、そしてそれを支えるお茶農家の緻密な育成作業があります。
一芯二葉(いっしんによう)この言葉は、最も美味しい新芽の摘み方を示す茶業の専門用語であり、お茶づくりの象徴とも言える言葉です。

茶畑の管理は、一年を通じて行う“総合技術”です。単に苗を植え、収穫するだけではなく、土壌、気候、病害虫、光、風――あらゆる自然の要素を読み解き、共に歩む農業。


🌱 1. 茶畑の基礎と品種選び

◯ 土地の選定と茶畑の造成

お茶は水はけが良く、酸性土壌を好む作物。標高や日照、傾斜の条件も茶園づくりに影響します。

  • 理想pH:4.5~5.5

  • 標高:200〜600mが香りの良い茶を作る傾向

  • 傾斜地は寒暖差が大きく、旨味成分(テアニン)を高めやすい

茶畑は「棚式」「畝立て式」「平坦地式」など地形に応じた方式で造成されます。

◯ 品種選びの考え方

日本には100種以上の茶品種がありますが、代表的なのは以下の通り

品種 特徴
やぶきた 全国の約7割、バランス型
さえみどり 鮮やかな緑、旨味が強く高級茶向け
あさつゆ 玉露風のまろやかさ、被覆栽培に最適

→ 土地の気候、収穫時期の分散、加工目的によって複数品種を組み合わせるのが一般的です。


🍃 2. 年間スケジュールで見る茶畑育成

茶畑管理は、1年中休むことのない仕事です。

🔸 秋(9月~11月):整枝と冬越し準備

  • 深刈り・中刈り・浅刈り:樹高を調整し、新芽の発育を整える

  • 病気や害虫の越冬を防ぐための除草と掃除

  • 土壌改良(苦土石灰、堆肥、緑肥のすき込み)

🔸 冬(12月~2月):施肥と剪定

  • 根に働きかける基肥(元肥)の投入

  • 茶の木のエネルギーを蓄えるための寒肥

  • 雪や霜の被害を防ぐための風よけネットの設置

🔸 春(3月~5月):新芽管理と1番茶(新茶)収穫

  • 萌芽(ほうが)開始を確認し、被覆栽培(かぶせ茶)など品質向上技術を施す

  • 害虫対策(チャノキイロアザミウマ、チャノホコリダニ)

  • 一芯二葉の若芽を手摘み or 機械摘み

🔸 夏(6月~8月):2番茶・3番茶と防除

  • 2番茶の収穫(1番茶より品質は下がるが量産型)

  • 高温多湿での病気(炭そ病、赤焼病)対策

  • 雑草管理と枝葉の切り戻し(通気性と採光確保)


💧 3. 肥料設計と土づくり:茶の味は土が決める

◯ 肥料の基本設計

お茶は、他作物よりも窒素要求量が高く、これが旨味や香りに直結します。

タイプ 目的 備考
基肥(元肥) 春先の萌芽を支える 有機+化成の併用が多い
追肥 生育の途中で施す 被覆栽培時には特に重要
寒肥 冬に根を育てる 骨粉や油かす、堆肥が中心

◯ 土壌分析による可視化管理

  • pH・EC値・窒素、リン酸、カリウムなどのバランスを年1回以上分析

  • 足りない成分だけを的確に補う「精密施肥」


🐛 4. 病害虫・気象リスクへの対策

◯ 主要な病害虫

  • チャノホコリダニ:新芽を変形させる

  • チャノキイロアザミウマ:若葉の表面を食害

  • 赤焼病・炭そ病:葉が茶色く枯れる

→ 生物農薬・BT剤・フェロモントラップ・天敵利用など、減農薬型のIPM(総合防除)が注目されています。

◯ 気象リスク

  • 遅霜:新芽の全滅リスク(送風機や防霜ファンを使用)

  • 台風:棚式茶園の倒壊対策が必須

  • 高温障害:夏場の根焼けや日焼けを防ぐ「マルチ被覆」


📈 5. 技術の進化とスマート農業の活用

◯ ICT・IoTの活用事例

  • 土壌水分センサー+スマホ連携 → 水管理の省力化

  • ドローンによる空撮モニタリング → 病害の早期発見

  • 茶葉生育AI診断 → 摘採タイミングの見極め

また、スマートファーム化により、高齢農家の負担軽減や若手参入の促進も期待されています。


✅ 茶畑育成は「技術 × 感性 × 継承」の農業

お茶農家による茶畑育成は、
技術(栽培管理)
× 感性(季節の読みと自然との対話)
× 継承(地域の文化と知恵)

この三位一体で成り立っています。

特に気候変動や市場変化が激しい今、土づくりと丁寧な育成こそが、茶の品質と農家の持続可能性を支える基盤です。

 

山佐園の茶話~part11~

皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!

 

 

山佐園の茶話~part11~

ということで、その実態と背景、今後に向けた課題と希望の兆しを、深く探っていきます。

 

「日本の風景」と聞いて思い浮かぶもののひとつ、茶畑の広がる景色。しかし今、その美しい風景が徐々に失われつつあります。
お茶農家の人手不足と茶畑の荒廃化は、静かに、しかし確実に進行している地域課題です。

かつて日本の各地で栽培され、文化・嗜好・経済を支えてきた「お茶」は、今まさに存続の危機に直面しています。


🍃 1. お茶農家の現状:担い手減少が深刻化

◯ 全国的な傾向:高齢化と後継者不足

農林水産省の統計によれば、日本国内の茶生産農家のうち、65歳以上の割合は6割以上。若い後継者が不足し、廃業する茶農家が年々増加しています。

茶農家数 備考
1990年 約9万戸 ピーク時
2020年 約1万5千戸 約85%減少

中山間地域や過疎地に多い茶農家では、「人を雇う余裕がない」「機械化が進まない」などの理由で、人手の確保が非常に困難な状況です。


🏞 2. 茶畑の荒廃化:放置される茶園の増加

◯ 放棄茶園の実態

管理ができなくなった茶畑は、雑草や灌木に覆われ、次第に原野へと戻っていきます。こうした放棄茶園の面積は、静岡・鹿児島・京都など主要産地でも拡大中です。

特に問題となるのが以下の点

  • 周辺農園への害虫・病気の拡散リスク

  • 美観の低下と観光資源の劣化

  • 地滑りなどの防災リスク増加

  • 土地としての価値の下落

茶畑は“常緑樹の畑”という特殊な農地であり、他の作物への転用も難しいため、再利用されず荒れ地になるケースが多いのが現状です。


📉 3. 産業構造の変化:需要の低下と価格の停滞

◯ 若年層の「お茶離れ」

  • ペットボトル飲料の普及

  • ラテやコーヒー文化の浸透

  • 急須でお茶を淹れる文化の希薄化

結果として、家庭用茶葉の需要が大幅に減少し、茶の市場価格は長年にわたり低迷。
例:1kgあたりの茶葉卸価格が、10年で約30〜50%下落という産地も存在します。


🛠 4. 解決に向けた挑戦と現場の動き

◯ ① スマート農業の導入

  • 茶葉の収穫ロボット(AI搭載)

  • ドローンによる生育・病害モニタリング

  • 作業記録のデジタル管理(茶園台帳アプリ)

導入コストやITスキルの壁はあるものの、高齢農家でも扱いやすい機器の開発が進められています。

◯ ② 地域ぐるみでの支援体制

  • 地元中高生やボランティアによる収穫体験

  • NPOと連携した「放棄茶園再生プロジェクト」

  • 地域おこし協力隊・都市部からの移住支援制度の活用

成功事例
静岡県川根町では、荒廃茶園を若手農家と学生が共同再生し、新ブランド「川根未来茶」を立ち上げ

◯ ③ ブランド化と6次産業化

  • 「玉露」「抹茶」「有機茶」など付加価値をつけた製品開発

  • 農家自らが加工・販売・カフェ運営まで担う例も

  • SNS・ネット通販を活用したダイレクトマーケティング


🌱 5. 私たちにできること:消費者の支援が未来をつくる

お茶農家の問題は、生産者だけでは解決できません。私たち消費者一人ひとりの選択が、茶産地の未来に直結します。

✅ できること

  • 急須でお茶を淹れてみる

  • 地元産やオーガニック茶を選ぶ

  • 茶農家直送のネットショップを応援する

  • 茶摘みイベントに参加して現場の声を知る


✅ お茶の未来は、共に育むもの

日本の茶畑は、ただの農地ではありません。それは 日本文化・地域の誇り・人の手で紡がれた伝統の象徴です。

しかし、その風景がいま、音もなく崩れはじめています。

この問題は、農業の構造変化、高齢化、消費文化の変化という、社会全体の縮図でもあります。

だからこそ
お茶農家と私たち消費者、行政、地域が一体となって支え合い、次の世代へと継承していくことが必要不可欠です。