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皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part22~
湯呑み一杯の向こう側には、1年を通して続く畑の管理、短い収穫期の勝負、そして加工・販売という長い工程があります。近年、お茶農家の現場では、気候・人手・価格・規制など複数の波が同時に押し寄せ、従来のやり方だけでは乗り切れない局面が増えました。本稿では、日本の茶産地を想定しつつ、畑・工場・市場の3視点から課題を整理し、すぐに着手できる打ち手までまとめます。
晩霜・春先の寒戻り:一番茶の芽吹きが早まるほど霜害のリスクが上がる。防霜ファンや散水、黒マルチなどへの投資負担が増加。
猛暑・干ばつ・豪雨:夏場の高温乾燥は樹勢を落とし、旨味成分の蓄積に影響。豪雨は土壌流亡や根傷み、排水不良を誘発。
収穫タイミングの難化:フェノロジー(生育リズム)の変動で「いつ摘むか」の決断が難しく、品質×歩留まりの最適点が読みにくい。
チャノミドリヒメヨコバイ、小さなハマキ類、カンザワハダニ…。高温化で世代回転が早まると防除回数が増え、耐性化リスクやコストが上昇。
有機・特別栽培では選べる資材が限られ、草生管理や天敵温存など**総合的病害虫管理(IPM)**の設計が不可欠に。
収穫は極端な繁忙の“瞬発型”。世帯内労働だけでは回せず、機械化・共同作業・外部人材の確保が必須。
高齢化で重労働の継続が難しい。摘採機・運搬・選別の動線を見直し、腰と肩への負担を“設計で”減らす必要。
化学肥料高騰や施肥制限で、有機質の回帰・土づくりに再び注目。
品種の多様化は品質の幅を広げる一方、最適な防除・摘採時期・被覆条件が畝ごとに違う難しさも。
蒸機・乾燥機を回す燃料・電力の高止まり。被覆(覆下)資材や網、防霜・防鳥のネットもコスト上昇。
省エネのための更新投資(インバータ化、断熱、熱回収)が必要でも、回収年数が長く資金繰りの壁に当たりやすい。
シングルオリジン、単品種、発酵茶や紅茶化など多品種少量のニーズ増。
ロット分け・トレース・在庫管理の手間が増し、**品質の“再現性”**を保つ運用が難しい。
HACCP 的な衛生管理、異物混入防止、残留農薬の**MRL(基準値)**対応。
海外輸出や大手取引では記録と証跡が求められ、紙台帳からの脱却が課題。
市場平均価格が伸び悩む一方、上物と下物の二極化が進行。
仕入先や流通の都合で、“良いもの”でも適正に評価されないケースが残る。
急須離れの一方、抹茶・ボトルティー・ティーカクテル・健康文脈など新しい入口は拡大。
ただし新カテゴリーは規格・衛生・表示の壁が高く、参入コストがネック。
農協・市場任せから、**直販・EC・観光(アグリツーリズム)**へ。
物語・写真・英語対応・配送・カスタマーサポートまで含めると、“農家の仕事”が増え続ける。
防霜の多層化:ファン+黒マルチ+簡易風除け、可搬温湿度ロガーで危険閾値を見える化。
IPM:フェロモントラップ、被覆下の湿度管理、茶園縁の草・樹種の選定で天敵温存。
土づくり:剪枝くずのチップ化・堆肥化、被覆作物(クローバー・ヘアリーベッチ)で有機物と保水を確保。
共同雇用プール(近隣数戸でのシェア)、摘採機の共同利用カレンダー。
収穫〜運搬の動線見直し(斜面にはモノレール・自走運搬車、集積点の固定化)。
学生・地域人材の短期アルバイトには、30分動画の作業eラーニング+現場チェックリストを準備。
熱回収・断熱・インバータで“燃やした熱を逃がさない”。
ロットID管理(QR)で生葉→荒茶→仕上げまで紐付け。単品種・単畝でも混乱しない台帳に。
小規模発酵ラインの試験スペースを確保し、紅茶・烏龍・発酵茶の**“二の矢”**を育てる。
シングルオリジンの設計:区画、品種、被覆日数、蒸しの強弱など**“違いの言語化”**。
ECの基本整備:淹れ方動画、写真(茶畑・製造・リーフ・水色・茶殻)、2分で強みが伝わる商品ページ。
観光・体験:新茶期の“摘採見学+製茶見学+試飲”、秋は“焙煎体験”。一次情報の提供はブランド力に直結。
法人向け:ボトルティー用の抽出適性、抹茶・粉末緑茶の粒度や溶解性などB2B規格表を用意。
共同機械リース・協同購入で初期費用を分散。
再エネ活用(屋根ソーラー+蓄電)で昼間電力を平準化、乾燥ピーク時の需要抑制に寄与。
省エネ・輸出・6次化に関連する補助・融資は、“成果(省エネ率・新売上)の数値計画”まで落として申請。
MRL・ポジティブリストを市場別に整理し、使用資材と収穫前日数(PHI)を管理表で一元化。
残留検査・水質検査の証跡を英訳テンプレートで常備。
バルク・ティーバッグ・粉末など形態別の規格書を用意し、問い合わせへの初動を早める。
研修受け入れ(短期)→シーズン雇用(中期)→新規就農支援(長期)の**“階段”**を地域で用意。
地域工場・共同乾燥など設備のシェアで小規模生産者の参入障壁を下げる。
若い世代がやりたい直販・体験・デジタルを、上の世代の栽培・製茶の技と重ねる“縦の分業”。
気候、人手、コスト、市場、規制。どれか一つではなく同時多発で起きています。鍵は、
データで可視化(気象・生育・防除・コスト・販売)
標準化(作業・記録・品質)
分担と連携(人・設備・販路)
の三点を“畑→工場→市場”の一本線でつなぐこと。
お茶は、土地と人の記憶の産物です。違いをつくる畑と、違いを伝える言葉、そして続けられる仕組みが揃ったとき、一本の新茶はようやく未来に届きます。
次の季節に向けて、できることを一つずつ“設計”していきましょう。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part20~
同じお茶でもお湯の温度・時間・茶葉量で味は劇的に変わります。ここでは、家庭で再現しやすいレシピと、品種・蒸し加減の相性、冷茶&氷出しまでを一気に解説。保存と水のコツもまとめました。
急須(細かい網がベター)・湯冷まし・湯呑み
お湯は一度沸騰→湯冷ましで温度調整。
カップを温めておくと香りが立ちます。
できれば軟水が相性◎(ミネラルの強い硬水は渋みが出やすい)
(茶葉量は1人分目安。お好みで微調整してください)
煎茶(浅蒸し):茶葉2–3g / お湯100ml / 70℃ / 60–90秒
→ うま味と清涼感のバランス。
煎茶(深蒸し):2–3g / 100ml / 65–75℃ / 30–45秒
→ 微粉が多いので短時間でやさしく注ぐ。
かぶせ茶:3g / 80–100ml / 60–70℃ / 60–90秒
→ まろやか。2煎目は少し熱めで短時間。
玉露:3g / 30–40ml / 50–60℃ / 90–120秒
→ とろりとした旨味。少量高濃度で楽しむ贅沢
ほうじ茶:2–3g / 130–150ml / 90–100℃ / 30–60秒
→ 香ばしさは高温×短時間で。
玄米茶:3g / 120ml / 80–90℃ / 30–60秒
二煎目のコツ:温度を10℃上げて時間は半分。香りがふわっと開きます。
やぶきた:万能。70℃前後で甘渋バランス。
さえみどり/あさつゆ:旨味系。**60–70℃**の低温が映える。
おくみどり:香り穏やか、深蒸し短時間がきれい。
在来・香気系:やや高温で立ち香を楽しむ。
水出し:茶葉10–15g/1Lを冷蔵庫で4–6時間。苦渋み少なめ、甘みすっきり。
氷出し:急須にたっぷりの氷+茶葉、ゆっくり溶けるのを待って少量ずつ。とろ甘の特別な一杯。
急冷:70℃で短時間抽出→グラスに氷へ直接注いで急冷。香り華やか✨
お湯が熱すぎて渋い → 湯冷ましを一回多く通す。
味が薄い → 茶葉を気持ち多めに、時間は変えずに。
粉っぽい(深蒸し)→ 短時間&静かに注ぐ。
2煎目が冴えない → 抽出後の茶葉を開けっ放しにしない(乾かさない)。
光・酸素・湿気・温度を避ける。
開封後は小分け&チャックをしっかり。
長期保管は未開封を冷凍→使用分だけ冷蔵/常温。出すときは結露対策で常温に戻してから開封。
煎茶 × 和菓子・塩むすび
深蒸し × 揚げ物・サンド
かぶせ/玉露 × チーズ・ナッツ(少量で)
ほうじ茶 × 焼菓子・チョコ・和スパイス料理
週末は品種違い飲み比べセットで小さなテイスティング会
平日は水出しボトルでデスクに常備。
季節の便りに合わせてレシピカードを入れ替えると続きます。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part19~
お茶は“畑の香り”をそのまま飲み物にしたもの。だからこそ、畑→摘採→製茶→仕上げの全部で香りが育ちます。この記事では、農家の一年を月ごとの段取りでたどりながら、現場で効くコツをまとめました。️
整枝・剪定:翌春の芽数と摘みやすさを決める大事な工程。畝ごとに“高さ基準”を写真で固定
施肥(基肥):ゆっくり効くものを中心に。施肥量は前年収量・葉色・土壌データで見直し。
排水路・風対策:豪雨と強風は“香りの敵”。溝さらい、支柱、畝肩の補修を冬のうちに。
土壌チェック:pH・EC・有機物。お茶は酸性寄りが得意。データはロット名で保存
防霜ファン/散水/不織布の準備✅
萌芽確認:畝ごとに発芽ステージを見まわり、被覆(かぶせ)開始の合図に。
かぶせ茶/玉露の被覆:遮光で旨味(アミノ酸系)が育つ。
かぶせ茶:目安1〜3週間
玉露:目安3週間以上
被覆開始・終了日は必ず記録
摘採適期:基本は一心二葉〜三葉。**雨後は含水率↑**なので無理をしない。
生葉の扱い:圃場から速やかに工場へ。搬入票に時間・畝・被覆有無を記録。
製茶フロー(荒茶):
蒸し(浅蒸し/深蒸し)→ 2) 粗揉 → 3) 揉捻 → 4) 中揉 → 5) 精揉 → 6) 乾燥
深蒸しは粉化しやすい分、抽出は短めを想定。
歩留まりの目安:生葉4〜5kg → 荒茶1kg。受入ロットごとに記録し、畝別の改善に。
官能チェック:立ち香・滋味・後口。**“香りノート”**を作ると翌年が楽に
二番茶:品質重視なら刈遅れ回避。一番茶後のお礼肥で樹を休ませつつ回復。
病害虫の見回り:チャノコカクモンハマキ・ハダニ・カイガラムシなどは畝端・日当たり端から出やすい。
IPM(総合防除):被害葉の早期除去・捕殺・草生管理で圃場のバランスを保つ。
草管理:足元の通風と作業性が香りを守る。猛暑時は早朝・夕方作業で安全第一
仕上げ:荒茶の選別・整形で外観を整える。
合組(ブレンド):畝・時期違いを組み合わせ、香味の再現性を作る職人仕事。
火入れ:低温〜中温で水分・香りのチューニング。焙香は行き過ぎ注意、メモと小試験で詰める。
保存:遮光・低温・低湿・脱酸素。開封後は小分けが鉄則
収量(kg/10a)・荒茶歩留まり(%)
水分・葉温・被覆日数・摘採日
官能点(香・旨・渋・後口)
クレーム/返品ゼロ日数・EC/店頭のリピート率
→ 畝×時期×被覆で並べると改善点が見える
摘採が遅れて渋味増 → 畝別カレンダー+“試し摘み”で前倒し。
深蒸しで粉っぽい → 造粒の工夫/ふるい直し+抽出推奨レシピを同梱。
火入れムラ → 小ロット試験→官能記録→温度再設定。一度に結論を出さない。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part18~
日本の茶文化は長い歴史を持ち、今なお私たちの暮らしに根付いています。その背景には、四季折々の自然と向き合いながら、丁寧に茶葉を育ててきたお茶農家の存在があります。しかし、彼らの果たしている役割は「茶を育てる」だけではありません。お茶農家は、地域経済を支え、雇用を創出し、地域ブランドを形作る「経済的プレイヤー」としての顔も持っているのです。
お茶の生産は、農村部において重要な基幹産業の一つです。とくに静岡、鹿児島、京都、三重などでは、茶業が地域経済の中核を担っており、生産・加工・流通・販売に関わる産業全体が一つの経済圏を形成しています。
年間収入の柱となる生産農家の存在
加工場や機械メーカー、資材業者などの関連産業への波及
地域自治体の税収・補助金活用にも寄与
このように、お茶農家は一地域の「経済基盤」の一部を形成する不可欠な存在です。
お茶農家では、収穫期や加工期に多くの人手が必要とされるため、地域におけるパート雇用・短期就労の機会を生み出しています。高齢者や主婦層、学生など、多様な層が関わることができ、地域の生活と経済に潤いを与えています。
また、6次産業化を進める農家では、製造・販売スタッフ、観光ガイド、カフェ運営など、農業以外の職域も生まれており、地元の若者や移住者の雇用の場としても注目されています。
地域独自の気候や品種、製法を活かした「ブランド茶」の存在は、地域の経済力を高める武器になります。
宇治茶、八女茶、知覧茶、狭山茶などのブランドが高価格帯を維持
高品質・無農薬・オーガニックなどの付加価値が、国内外市場で評価
観光商品(お土産・体験・カフェ)としての経済波及効果
こうしたブランド力は、観光客誘致や移住促進にもつながり、経済的効果はお茶農家にとどまらず、地域全体に波及します。
日本茶の輸出量は近年増加傾向にあり、特に北米・欧州・アジアで健康志向の高まりとともに需要が拡大しています。
抹茶やほうじ茶が人気商品に
輸出による外貨獲得と農家の収益多様化
輸出に適した生産体制整備や認証取得が新たな経済活動を喚起
このようなグローバル展開も、お茶農家の経済的役割を国際レベルで拡張しています。
お茶農家は単なる生産者ではなく、「地域を再生させる主体」としての可能性を秘めています。茶畑を中心としたエコツーリズム、里山保全活動、福祉連携など、社会的意義と経済的価値の両立が実現可能な分野として注目されつつあります。
茶農家×観光=持続可能な観光経済
茶農家×福祉=地域福祉の新しいモデル
茶農家×教育=地域学習の場としての茶畑
私たちが日々楽しむ一杯のお茶。その背後には、お茶農家の労働と工夫、そして地域経済を支える静かで確かな営みがあります。
お茶農家の経済的役割は、「地方創生」のキーワードそのものです。今こそ、農業を支える視点から、地域経済を見直すことが求められているのかもしれません。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part17~
ということで、お茶農家における「多様化」の現在と可能性を、事例とともに深く探ります。
かつて「お茶農家」といえば、収穫から加工・販売までを一貫して行う専業農家が中心でした。しかし今、その姿は大きく変わりつつあります。気候変動、消費者の嗜好変化、流通の変化など、さまざまな要因に対応するため、お茶農家は生産のみにとどまらず、多様な形で事業の幅を広げ始めています。
少子高齢化や茶の消費量減少を背景に、お茶農家の多くが「茶以外の作物栽培」や「茶加工品開発」に取り組んでいます。
例:柚子や梅などの果樹栽培との兼業
同じ山間地で育つ作物を組み合わせることで、季節ごとの収益バランスを取る工夫が見られます。
例:紅茶やフレーバーティーの製造
伝統的な緑茶だけでなく、紅茶やほうじ茶、ハーブとブレンドしたオリジナルティーを製造することで、新しい顧客層を獲得しています。
かつては市場や卸に出荷するのが主流だった茶農家も、近年では「6次産業化」により、自らブランドを立ち上げ、加工・販売まで行う例が増えています。
オンライン販売の充実
SNSを活用して全国の消費者とつながり、自社ECサイトや通販プラットフォームを通じてダイレクトに販売。
サブスクリプション形式の導入
月替りでお茶を届ける「定期便」は、顧客との継続的な関係を生み、収益の安定にもつながります。
茶畑の美しさや茶作り体験を活かし、観光や教育の分野へ進出する動きもあります。
グリーンツーリズムの受け入れ
茶摘み体験や手揉み体験、テラスカフェの併設など、訪れる人に「体験」と「物語」を提供する農園が増えています。
外国人観光客向けツアー
海外からの観光客にとって、日本茶文化は魅力的な体験価値。英語対応や農家民泊との連携も進んでいます。
お茶農家の多様化は、地域の福祉や教育、環境保全とも連動しています。
障がい者の就労支援との連携
茶摘みや袋詰め作業などを通じ、地域福祉との協働が行われています。
里山保全活動としての茶栽培
茶畑の維持は、斜面崩壊の防止や生物多様性の確保にも貢献しており、環境保全型農業としての意義も見直されています。
「お茶農家の多様化」とは、単に副業を持つことではありません。それは、自分たちの土地、文化、技術を多角的に活かし、変化に対応する柔軟な姿勢の表れです。お茶はもはや飲み物だけではなく、人を集め、体験を提供し、地域と未来をつなぐ存在になりつつあります。
お茶農家が生み出すのは、「一杯のお茶」だけではなく、「新しい暮らしのかたち」なのです。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part16~
ということで、茶畑の香りが持つ意味、農家にとっての精神的価値、そして暮らしへの影響について、静かに深く掘り下げます。
お茶の味や色は語られても、「香り」に焦点を当てた話は意外に少ないかもしれません。しかし、お茶農家にとって最も五感に訴えるのは、茶畑を吹き抜ける風の香りかもしれません。それは単なる植物の匂いではなく、**季節・時間・生命の営みを内包した“香りの風景”**なのです。
お茶の葉は、**揮発性香気成分(テアニン、メチル化合物など)**を多く含んでいます。とくに新芽の出る春先、朝露とともに茶畑を歩くと、青くて甘く、そしてどこか清々しい香りが鼻を満たします。
朝日が差し込む瞬間、しっとりと立ち上がる“若葉の香”
摘み取り直前の新芽から漂う“緑の密”のような香気
これらは、天気・風・葉の状態によって毎日異なり、まさに**「一期一会の香り」**として農家の心を包み込みます。
農家は、香りから茶葉の状態を直感的に読み取ります。
「今日はちょっと湿気が強くて葉が重いな」
「この畝の品種は、雨上がりが特に芳しい」
経験を積んだ農家ほど、視覚よりも嗅覚で変化を感じ取ると言われます。**香りこそが、茶の“生きている証”**なのです。
茶畑の香りは、農作業の合間にふっと心を和らげてくれる存在です。朝露の時間帯、摘採のあとの夕暮れ時、ふとした瞬間に漂う香りが、自然と一体になっている感覚をもたらします。
季節の変化に敏感になれる
無心になって作業に没頭できる
心が乱れていても、香りに触れるとスッと整う
香りは、**お茶農家にとっての“天然のセラピー”**なのです。
この茶畑の香りを、単なる「農業の副産物」ではなく、暮らしの中の価値として位置づけ直す動きも出ています。
茶葉を焙煎する香りを活かした観光農園や茶室体験
フレグランス商品やアロマオイルへの応用
精神衛生に効果がある“緑茶香気療法”の研究
香りは、日本文化の“感性”としての茶業を象徴する要素としても期待されています。
茶畑の香りは、風の中に溶け込んだ自然からのメッセージであり、農家が日々受け取る“見えないご褒美”です。それは、働く人の心を癒し、文化としての誇りを呼び覚まし、やがて消費者の食卓へと香りごと届けられます。
お茶は、味だけではなく、「香り」をもって人の心に寄り添うもの。ぜひ、次にお茶を飲むときには、その香りに、育った畑の風景と農家の想いを重ねてみてください。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part15~
ということで、お茶農家を取り巻く課題と、その根底にある社会構造の変化を掘り下げながら、今後の可能性についても展望します。
日本のお茶文化は千年以上の歴史を持ち、精神性や暮らしと深く結びついてきました。しかし現代社会の変化の中で、お茶農家は多くの試練に直面しています。
多くの茶農家では、現在も70代以上の高齢者が中心となって茶園を維持しています。次世代への事業継承が困難で、「継ぐ人がいない」という声が全国の産地で聞かれています。
若年層にとって農業は「収益が見えづらく魅力に乏しい」産業と見られがち
都市部への人口流出と農村部の過疎化により、地域全体の担い手が減少
結果として、放棄茶園の増加や、ブランドの維持が困難になる地域も出てきています。
かつては家庭で急須を使ってお茶を淹れる習慣がありましたが、今ではペットボトル茶が主流となり、急須文化は大きく後退しています。
若者世代を中心に「お茶=健康的だが地味」とされる傾向
インスタント飲料やコーヒー、エナジードリンクへの嗜好移行
これにより、高品質な一番茶や手摘み茶の需要が減り、手間をかけた製品ほど売れにくいという矛盾が生じています。
温暖化や気象の不安定さは、繊細な新芽を育てるお茶農家にとって致命的な影響を与えます。
霜による芽の焼けや、異常高温による収量低下
長雨や湿度の上昇による病害虫の増加
こうした自然リスクが、品質安定と生産コストの両立を難しくしており、経営を圧迫しています。
海外の安価なお茶との価格競争も激しくなっており、日本国内の茶葉はコスト面で不利です。
大量生産される外国産の緑茶や抹茶粉末が安価で流通
「価格では勝てない」という現実が、経営の圧力に
その中でも差別化を図るため、高級品路線・機能性表示・輸出戦略などが模索されていますが、体力のある農家に限られる場合も少なくありません。
お茶の収穫や製茶作業は、かつては地域の季節行事やコミュニティ活動の一部でもありました。今では機械化や家族経営の縮小により、地域の連帯感や文化的価値の継承も薄れています。
「お茶を飲む」こと自体が、日常から遠ざかり、特別なものになってしまったのです。
お茶農家にとって最大の課題は、「農業としての収益性の確保」と「文化価値の伝承」の両立です。
若手就農支援や体験型ツーリズムによる担い手確保
地産地消・直販モデルによる利益構造の再構築
海外市場向けに抹茶や健康機能性を打ち出した戦略
茶のある暮らしを再び広める文化発信
これらの取り組みが、次世代へと茶業を引き継ぐ希望の芽となるでしょう。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part14~
ということで、茶樹の育成において特に注意すべきポイントや手入れの方法を、時期別・目的別に深掘りしてご紹介します。
お茶の品質は、自然条件と栽培技術の融合で決まります。中でも、農家の“気づき”と“手入れ”の積み重ねが、香り・色・味を引き出す鍵です。
霜害防止:春の遅霜対策に防霜ファンや散水を活用
追肥のタイミング:芽出し肥は3月中旬~下旬に施す
芽の揃いを見る目:ばらつきがあれば整枝調整も検討
🌱 新芽の品質は「春にいかに守り育てたか」で決まります。
冬剪定(1月〜2月):強剪定で新芽更新を促進
夏剪定(7月〜8月):光合成効率向上・病害予防
浅刈りと深刈りの使い分け:年ごとに交互施行が理想
✂️ 樹形の乱れは収穫効率にも直結するため、計画的に管理。
春前の基肥(1~2月):芽出しの力をつける
追肥(4月~5月):一番茶後の樹勢回復
秋肥・冬肥(9~11月):来年の芽と根を育てる基盤
🍂 肥料の与え方一つで、葉の厚み・香り・苦渋味が変わります。
定期観察と発生傾向の記録
薬剤ローテーションによる耐性対策
防除カレンダーの活用(地域JA配布の防除表も参考)
🔍 葉の裏・新芽の先を毎日見る習慣が、不作を防ぎます。
かぶせ茶:摘採の10〜14日前から被覆
玉露:3週間以上の被覆が標準
黒い寒冷紗やワラを使って光合成を制限しテアニンを増やす
☂️ 被覆資材の管理(耐久性・透光率)も品質管理の一部です。
機械除草と人手による根切りの併用
梅雨・夏場の排水対策(高畝や側溝の整備)
💧 根にストレスをかけないための環境整備が健康な茶葉を育てます。
お茶農家の仕事は、一見同じ作業の繰り返しに見えて、毎日違う“茶の表情”を見分ける観察力と判断力が求められます。剪定、施肥、防除、被覆――これらすべてが“手をかけたお茶”の味わいにつながります。
“気づける農家”が、“選ばれるお茶”をつくるのです。
皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part13~
お茶の栽培は、茶種ごとに異なる管理が求められます。特に煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶などは、栽培方法や収穫時期、施肥・防除のタイミングが異なるため、年間を通じた計画的な管理が必要です。
剪定・整枝:樹形を整え、新芽の発芽を促進します。
施肥:基肥を施し、春の新芽に備えます。
病害虫防除:越冬害虫の駆除を行います。
被覆資材の準備:被覆栽培に必要な資材の点検・準備を行います。
芽出し管理:新芽の生育状況を確認し、必要に応じて追肥を行います。
防霜対策:遅霜による被害を防ぐため、防霜ファンの設置や散水を行います。
被覆開始:新芽の生育に合わせて、被覆を開始します。お茶百科
一番茶の摘採:新芽を収穫し、品質の高い茶葉を確保します。
加工:摘採した茶葉を速やかに加工し、品質を保持します。農林水産省
被覆解除:収穫後、被覆を解除し、茶樹の光合成を促進します。
二番茶の摘採:新芽の生育状況を確認し、適切なタイミングで収穫します。
施肥:収穫後の茶樹の回復を促すため、追肥を行います。
病害虫防除:高温多湿な時期に発生しやすい病害虫の防除を徹底します。農林水産省
整枝:茶樹の樹形を整え、翌年の新芽の発芽を促進します。
施肥:秋肥を施し、茶樹の栄養状態を整えます。
土壌改良:堆肥や石灰を施し、土壌のpHや肥沃度を調整します。
施肥:冬肥を施し、茶樹の栄養状態を維持します。
病害虫防除:越冬害虫の駆除を行います。
資材の点検・整備:農機具や被覆資材の点検・整備を行い、翌年の作業に備えます。
お茶の栽培は、茶種ごとに異なる管理が求められます。特に玉露やかぶせ茶などの高級茶は、被覆栽培や施肥、防除のタイミングが品質に大きく影響します。また、煎茶や番茶も、収穫時期や整枝、施肥のタイミングを適切に管理することで、品質の向上と安定供給が可能となります。年間を通じた計画的な管理を行い、茶種ごとの特性を最大限に活かすことが、品質の高いお茶を生産するための鍵となります。