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皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part21~
南から北へ、新芽が走る。72時間の段取りが品質を決める
茶畑の一年は、茶摘みシーズンを中心に回ります。冬の休眠から芽吹き、若芽が伸び、最適な一瞬を見極めて摘み、数時間で加工へ——この“連続した設計”が、湯呑みの一杯の香味を形づくります。本稿では、農家の現場目線で時期の移ろい・適期の判断・天候対応・摘み方の選択・加工までの流れを整理し、最後にチェックリストも載せました。産地の違いを越えて活かせる骨子に絞っています。
冬〜早春:休眠芽が寒さに当たり、春の生長準備(休眠打破)。
萌芽期:地温・気温の上昇に合わせて芽が動き出す。南の産地から始まり、桜前線の少しあとを追う感覚で北上。
伸長期:新芽が一気に伸び、柔らかさ・うま味(アミノ酸)・香り前駆体が高まる。
適期判定→摘採→即加工:生葉は呼吸で劣化するため、収穫から数時間で蒸し・揉みへ。
整枝・追肥・病害虫管理:一番茶後は次の芽(=二番茶)の設計モードに切り替え。
茶摘みの合図は“カレンダーではなく芽”。新芽の状態=品質という原則が、全ての判断の起点です。
一番茶:うま味が豊かで価格形成の主軸。産地の看板商品「新茶」はここから。
二番茶:日射強く生育スピードが速い。香り・渋みの設計とスケジュール力が差に。
三番茶:地域や経営方針で実施可否が分かれる。樹勢や翌年の芽作りと相談。
秋冬番茶:量重視・加工原料用途が中心。土づくり・剪定設計とのバランスが鍵。
現場では「一心二葉〜三葉」「芽長・葉質・色艶」を総合判断します。最近はここに簡易データを足して再現性を高めます。
開葉数の目安:一心二葉付近でうま味が乗りやすく、三葉へ向かうほど渋み・繊維が増える傾向。
葉質(硬化度):指先でのしなり、ハサミの抵抗感、色味の深まりが合図。
百芽重や芽数:区画ごとの“芽の勢い”を把握し、収量計画を微調整。
気象と積算温度:遅霜リスクや雨前後の品質変動を読む材料に。
目と手の勘は今も最強。ただしメモ・写真・簡易指標を残すと、翌年の適期再現がぐっと楽になります。
遅霜:最も怖い外的要因。防霜ファン・散水氷結・煙霧などを組み合わせ、被害を点で止める。
雨:降雨直後は葉の含水が上がり、青臭さ・渋みの出方が変わる。小雨で続けるか、切るかの判断が収益を左右。
強風・乾燥:芽先が傷みやすい。被覆園は被覆資材の管理で緩和。
煎茶:光を浴びて香りと渋みの骨格を作る。浅蒸し〜深蒸しは生葉の厚み・硬さで決める。
かぶせ/玉露:**被覆(遮光)**でうま味(アミノ酸)を高め、渋みを抑える。被覆日数・資材・開始時期が勝負。
てん茶(抹茶原料):直納品が多く、茎や粉の混入率、網目選別の管理が重要。
萎凋香タイプ:ごく軽く萎凋(しおらせ)して花香を引き出す設計も。摘採タイミングと加工段取りの一致が必須。
手摘み:柔らかい芽だけを選べるため最高グレードに向く。労力がボトルネック。
可搬型機械(バリカン):スピードと品質の折衷。条間・畝形状の整備が出来栄えを左右。
乗用型摘採機:面積の大きい園地で主力。畝面の平滑性・刃高の均一が品質の鍵。
どの方式でも、摘採面の高さを揃える=翌年の芽づくり。収穫と樹勢管理はワンセットです。
生葉は摘んだ瞬間から呼吸で変化します。収穫→搬出→計量→蒸しまでの搬送・待機を最短に。
蒸し:青臭みのコントロール。浅蒸しは輪郭のある香味、深蒸しはまろやかな口当たり。
粗揉→中揉→精揉:水分・形状・細胞破壊のバランスを揃え、荒茶へ。
仕上げ・火入れ:篩別で粒度を整え、火入れで香味をまとめる。
ロット設計:区画・時刻・摘み方でロット分けし、味の設計図として記録。
人員配置:経験者+新人の混成でライン化。役割(摘採・運搬・検品・釜/ローラ)を固定してミス減。
安全・衛生:熱源・回転部・粉じんの安全教育。衣類の紐・アクセは厳禁。
水分・休憩:高温作業の熱ストレスは品質にも響く。短時間・高頻度で水分補給。
コミュニケーション:無線・メッセンジャーで天候・機械トラブル・加工待ちの情報共有。
施肥設計:一番茶前の追肥は効きが早いが、過多は味に影響。根圏の健康を優先。
雑草・生物多様性:全面除草ではなく抑草へ。土壌生物と水はけを守る。
資材と環境:被覆資材や包装のリユース・分別。加工の廃熱・粉の扱いも見直し対象。
ロット情報の共有:区画・摘採日・被覆日数など“畑の履歴”を簡潔に伝えるとファンが増える。
淹れ方設計:理想の湯温・抽出時間・グラム数を1枚のリーフレットに。
飲み手との対話:試飲会・オンライン配信で畑→工場→湯呑みのストーリーを直に届ける。
摘採前
芽の状態(開葉数・硬さ・色艶)を区画別に記録
遅霜・降雨予報と防霜・雨天時運用を確認
機械点検(刃・高さ・電源・予備部品)
被覆園の資材・端部処理の再確認
摘採日
収穫→搬出→計量→蒸しのタイムライン共有
雨対策(通い箱の通気・防水)
区画・時刻ごとにロット札を徹底
加工
蒸し条件(時間・温度)と生葉の厚みの整合
粗揉・中揉・精揉の目標水分
仕上げ・火入れの温度履歴と官能メモ
シーズン後
整枝高さの統一/枯れ枝除去
樹勢評価と次番茶の実施可否
収量・品質・天候・作業記録の振り返り
茶摘みシーズンは、芽の科学×天候対応×段取り×加工が一気に交差するクライマックスです。
「いつ摘むか」「どう運ぶか」「どう蒸すか」を数時間で決め切る緊張感の先に、香り立つ新茶の一杯が生まれます。
来季に向けては、
適期判断の記録化、
雨・霜の運用基準の明文化、
収穫〜蒸しのリードタイム短縮。
この3つだけでも、味は確実に前へ進みます。茶畑は毎年同じ顔をしていません。だからこそ、今年の“旬”を、今年の段取りでつかまえましょう。