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皆さんこんにちは!
有限会社お茶の山佐園の更新担当の中西です!
山佐園の茶話~part22~
湯呑み一杯の向こう側には、1年を通して続く畑の管理、短い収穫期の勝負、そして加工・販売という長い工程があります。近年、お茶農家の現場では、気候・人手・価格・規制など複数の波が同時に押し寄せ、従来のやり方だけでは乗り切れない局面が増えました。本稿では、日本の茶産地を想定しつつ、畑・工場・市場の3視点から課題を整理し、すぐに着手できる打ち手までまとめます。
目次
晩霜・春先の寒戻り:一番茶の芽吹きが早まるほど霜害のリスクが上がる。防霜ファンや散水、黒マルチなどへの投資負担が増加。
猛暑・干ばつ・豪雨:夏場の高温乾燥は樹勢を落とし、旨味成分の蓄積に影響。豪雨は土壌流亡や根傷み、排水不良を誘発。
収穫タイミングの難化:フェノロジー(生育リズム)の変動で「いつ摘むか」の決断が難しく、品質×歩留まりの最適点が読みにくい。
チャノミドリヒメヨコバイ、小さなハマキ類、カンザワハダニ…。高温化で世代回転が早まると防除回数が増え、耐性化リスクやコストが上昇。
有機・特別栽培では選べる資材が限られ、草生管理や天敵温存など**総合的病害虫管理(IPM)**の設計が不可欠に。
収穫は極端な繁忙の“瞬発型”。世帯内労働だけでは回せず、機械化・共同作業・外部人材の確保が必須。
高齢化で重労働の継続が難しい。摘採機・運搬・選別の動線を見直し、腰と肩への負担を“設計で”減らす必要。
化学肥料高騰や施肥制限で、有機質の回帰・土づくりに再び注目。
品種の多様化は品質の幅を広げる一方、最適な防除・摘採時期・被覆条件が畝ごとに違う難しさも。
蒸機・乾燥機を回す燃料・電力の高止まり。被覆(覆下)資材や網、防霜・防鳥のネットもコスト上昇。
省エネのための更新投資(インバータ化、断熱、熱回収)が必要でも、回収年数が長く資金繰りの壁に当たりやすい。
シングルオリジン、単品種、発酵茶や紅茶化など多品種少量のニーズ増。
ロット分け・トレース・在庫管理の手間が増し、**品質の“再現性”**を保つ運用が難しい。
HACCP 的な衛生管理、異物混入防止、残留農薬の**MRL(基準値)**対応。
海外輸出や大手取引では記録と証跡が求められ、紙台帳からの脱却が課題。
市場平均価格が伸び悩む一方、上物と下物の二極化が進行。
仕入先や流通の都合で、“良いもの”でも適正に評価されないケースが残る。
急須離れの一方、抹茶・ボトルティー・ティーカクテル・健康文脈など新しい入口は拡大。
ただし新カテゴリーは規格・衛生・表示の壁が高く、参入コストがネック。
農協・市場任せから、**直販・EC・観光(アグリツーリズム)**へ。
物語・写真・英語対応・配送・カスタマーサポートまで含めると、“農家の仕事”が増え続ける。
防霜の多層化:ファン+黒マルチ+簡易風除け、可搬温湿度ロガーで危険閾値を見える化。
IPM:フェロモントラップ、被覆下の湿度管理、茶園縁の草・樹種の選定で天敵温存。
土づくり:剪枝くずのチップ化・堆肥化、被覆作物(クローバー・ヘアリーベッチ)で有機物と保水を確保。
共同雇用プール(近隣数戸でのシェア)、摘採機の共同利用カレンダー。
収穫〜運搬の動線見直し(斜面にはモノレール・自走運搬車、集積点の固定化)。
学生・地域人材の短期アルバイトには、30分動画の作業eラーニング+現場チェックリストを準備。
熱回収・断熱・インバータで“燃やした熱を逃がさない”。
ロットID管理(QR)で生葉→荒茶→仕上げまで紐付け。単品種・単畝でも混乱しない台帳に。
小規模発酵ラインの試験スペースを確保し、紅茶・烏龍・発酵茶の**“二の矢”**を育てる。
シングルオリジンの設計:区画、品種、被覆日数、蒸しの強弱など**“違いの言語化”**。
ECの基本整備:淹れ方動画、写真(茶畑・製造・リーフ・水色・茶殻)、2分で強みが伝わる商品ページ。
観光・体験:新茶期の“摘採見学+製茶見学+試飲”、秋は“焙煎体験”。一次情報の提供はブランド力に直結。
法人向け:ボトルティー用の抽出適性、抹茶・粉末緑茶の粒度や溶解性などB2B規格表を用意。
共同機械リース・協同購入で初期費用を分散。
再エネ活用(屋根ソーラー+蓄電)で昼間電力を平準化、乾燥ピーク時の需要抑制に寄与。
省エネ・輸出・6次化に関連する補助・融資は、“成果(省エネ率・新売上)の数値計画”まで落として申請。
MRL・ポジティブリストを市場別に整理し、使用資材と収穫前日数(PHI)を管理表で一元化。
残留検査・水質検査の証跡を英訳テンプレートで常備。
バルク・ティーバッグ・粉末など形態別の規格書を用意し、問い合わせへの初動を早める。
研修受け入れ(短期)→シーズン雇用(中期)→新規就農支援(長期)の**“階段”**を地域で用意。
地域工場・共同乾燥など設備のシェアで小規模生産者の参入障壁を下げる。
若い世代がやりたい直販・体験・デジタルを、上の世代の栽培・製茶の技と重ねる“縦の分業”。
気候、人手、コスト、市場、規制。どれか一つではなく同時多発で起きています。鍵は、
データで可視化(気象・生育・防除・コスト・販売)
標準化(作業・記録・品質)
分担と連携(人・設備・販路)
の三点を“畑→工場→市場”の一本線でつなぐこと。
お茶は、土地と人の記憶の産物です。違いをつくる畑と、違いを伝える言葉、そして続けられる仕組みが揃ったとき、一本の新茶はようやく未来に届きます。
次の季節に向けて、できることを一つずつ“設計”していきましょう。